Research Grant

研究助成

ペダリング動作向上のための多軸力覚センサを活用した足裏圧測定インソール開発補助事業

2023年度 機械振興補助事業 研究補助 個別研究

ペダリングを科学する:
多軸力覚センサ内蔵インソールの開発とリアルタイム評価

① 研究の目的と背景

自転車競技において、勝利の鍵を握るのは「効率的なペダリング」と「空気抵抗を最小限に抑える姿勢」の2点に集約されます。特にペダリング動作は、下肢(足)の筋収縮によって生み出されたパワーを、いかにロスなくペダル・クランクを介して地面への推進力へと変換できるかが競技成績を大きく左右します。

現在、日本でもスポーツサイクリスト層は増加傾向にあり、トッププロの動画や講座など「速く走るための情報」は溢れています。しかし、ペダリングの技術指導は「回すように漕ぐ」といった主観的・定性的な表現に留まっており、選手が自分の動作をその場で客観的に把握し、修正することは困難でした。既存のパワーメーターでは「ペダルに加わる力」は測れますが、足裏のどの部分で、どの方向に力が逃げているかという詳細な情報までは得られません。

本研究の目的は、独自の多軸センサ技術をインソールに実装し、走行中の足裏圧の「今」を多方向からリアルタイムに可視化することです。言葉では伝えにくい技能の差を数値で示すことで、競技者の弱点を特定し、その場で動作を改善できる革新的なフィードバックシステムの構築を目指しました。

② 開発内容

高負荷・高サンプリングに耐え、違和感のない「インテリジェント・インソール」の設計

本年度は、これまでに歩行解析用として開発してきたセンサ入りシューズをベースに、自転車競技特有の過酷な条件に適応させる大幅なメカ設計変更を実施しました。①過酷な環境に耐えるメカ設計(自転車走行時の荷重は歩行時を遥かに上回り、時速50km/hを超える高速走行では激しい振動と負荷がかかるため)②耐久性と装着性の両立(センサが破壊されない強度を確保しつつ、ペダリングの違和感やエネルギーロスを防ぐため、インソールの厚みを7mm以下に抑えるというタイトな設計目標を設定)③高度なセンシング(足裏の母指球、小指球、親指付近に、6軸力覚センサと特注のフィルムタイプ3軸センサを計3個以上搭載)を実現するために、足裏から足指に至るまで、複雑に変化する多軸方向の力を精密に捉える構造を完成させました。

また、記録システムは、④超高速サンプリングとリアルタイム通信(一瞬のペダリング動作を詳細に解析するため、2msec(500Hz)という極めて高いサンプリング周波数)、⑤無線化(取得した膨大なデータは内部メモリに一次保存し、Bluetoothを介してスマートフォンやサイクルコンピュータへ送信。独自の記録用ソフトウェアにより、走行中でもグラフィカルに足裏圧をリアルタイム表示するシステム)を実現するようにシステムを構築しました。

動作の検証

ロードレース優勝者と未経験者を対象に、試作インソールを用いた比較実験(20km/h〜60km/h走行)を行いました。経験者は左右のバランスが均一なだけでなく、「圧ベクトルの方向」が常に進行方向と一致していました。一方、未経験者は力の大きさだけでなく方向にもバラツキが多く、力が後方や側方に逃げている(=無駄なエネルギーを消費している)ことがはっきりと可視化されました。

本事業で開発したシステムにより蓄積された「サイクリングダイナミクス」のデータを活用することで、個々のユーザに合わせた弱点克服トレーニングの提案が可能となります。岩手から、日本の自転車競技レベルを底上げするための「一歩」を、JKA財団の支援によって踏み出すことができました。