安定した食提供を実現する新たな小型粘度計の開発 補助事業
2024年度 機械振興補助事業 研究補助 ステップアップ研究
使いやすさを追求:大幅な小型・軽量化と計測の自動化を実現
① 研究の目的と背景
多職種連携を支える“共通認識”としてのとろみ測定
平成から令和へと時代が進む中、日本の高齢化は加速し、嚥下障害を持つ方のケアの場は病院から家庭へと大きく移行しています。在宅での安全な食生活を支えるには、ご家族だけでなく、医師、歯科医師、看護師、管理栄養士、介護士など、多職種がチームとなって情報を共有する体制が不可欠です。
しかし、現在大きな課題となっているのが、食事の「とろみ(粘度)」に関する基準の曖昧さです。誤嚥性肺炎を防ぐためにとろみ剤が使われていますが、現場ではいまだに「ケチャップ状」「ポタージュ状」といった感覚的な表現に頼っており、製品ごとの特性の違いも相まって混乱が生じています。この「とろみのバラつき」は、時として命に関わるリスク(誤嚥・窒息)を招きます。 私たちは2021年、JKA財団のご支援を受け、「誰でも、どこでも、簡単に」測れる粘度計の開発に着手しました。特許出願した独自の「6軸センサーによる多方向解析技術」は、すでに専門機器に匹敵する高精度を証明しています。2024年度は、この技術をさらに進化させ、老老介護の現場でも負担なく導入できるよう、徹底した「低コスト化」「小型・軽量化」および「操作の自動化」を最大の目的として研究開発を実施しました。
② 開発内容
「ボタンひとつ」で誰でも高精度な計測を。設計・制御の全面刷新
本年度は、ご家庭のキッチンの引き出しに収まり、かつ誰もが迷わず使える家庭用デバイスを目指し、ハード・ソフト両面から以下の改良を行いました。
劇的な小型化と軽量化
「毎日使う道具」としての完成度を高めるため、各パーツを再設計しました。
| サイズ | 胴体部分の直径を20%(40mm→32mm)、液体に浸すスカート部を13%(30mm→26mm)、 全長を6%(150.4mm→140.7mm)短縮 |
|---|---|
| 重量 | 重量は約37%(105.2g→66.6g)の軽量化に成功。 長時間の調理補助でも疲れにくい設計となりました。 |
低コスト化と精度の両立
実用化への最大の壁は「センサーの価格」でした。高価な多軸センサーを、より安価なセンサーへ置換しつつ、これまで培った「モーメント検出」のノウハウを活用することで、コストを大幅に抑えながらも従来の専門機器と同等の精度を維持することに成功しました。
計測自動化とLED表示の実装
専門知識がなくても使えるように、ボタン一つで測定が完了するプログラムを開発しました。測定結果は数値ではなく、LEDの色による「5段階表示」で示されます。これにより、一目で「安全なとろみか」を判別できるようにしました。同時に、研究用としてパソコンへのデータ保存機能も残し、今後の臨床実地研究に対応できるハイブリッドなシステムへと進化させました。
モーター回転数の自動制御プログラム
とろみのついた液体(非ニュートン流体)は、粘度が高くなるほどモーターに負荷がかかり、回転が遅くなって正確な値が出ないという課題がありました。本年度は、センサーからのフィードバックを受けて電圧を自動調整し、回転数を常に一定に保つプログラムを導入しました。
③本研究の展望
暮らしのあらゆる場面に「安心」をデザインする
開発を行った粘度計はモバイルバッテリーでも駆動するため、電源が限られる災害時の避難所においても、嚥下障害を持つ方々へ安全な食事支援を行うことを可能にします。さらには、建築現場(セメントや左官材の硬さ管理)など、医療・介護の枠を超えた幅広い産業分野での品質安定化にも寄与する可能性を秘めています。
