Class and training content

授業・実習内容

私たちの教育(Education)

〜論理的な思考を養い、臨床に強い歯科医師を育てる〜

生理学は、歯科医師国家試験において基礎科目の柱であると同時に、内科学、外科学、歯科麻酔学といった臨床諸科目の理解に直結する最重要の土台となる科目です。私たちは、暗記に頼らない論理的教育を通じて、合格への確かな実力と、現場で動じない臨床推論能力を養成します。

1.私たちが向き合う歯学部生の課題

現在の歯学部教育、特に基礎医学の習得において、多くの学生が以下のような課題を抱えています。

「丸暗記」の限界膨大な試験範囲を、意味を理解せず言葉として丸暗記しようとしています。その結果、少しひねった応用問題や、科目を横断する問題に対応できず、試験が終われば知識が抜け落ちてしまうという悪循環に陥っています。
「基礎」と「臨床」の分断生理学を「進級のために必要な、臨床とは無関係な苦行」と捉えてしまい、その知識が将来の歯科麻酔や全身疾患(内科)の理解に直結していることに気づけていません。
「思考力」の不足与えられた正解を覚えることには慣れていますが、検査数値やバイタルサインから「なぜこの状態になっているのか」を論理的に推論する訓練が不足しています。例えば、酸塩基平衡の数値を与えたとして、その数値から状態を推論するなどの学習は苦手にしています。

私たちは、この点としての知識を線としての理解に変えることこそが、現在の歯学生に最も必要な教育であると考えています。

2.教育のミッションと方針:臨床と合格を見据えた3つの柱

岩手医科大学歯学部の使命は、良質な歯科医師を世に送り出すことにありますが、現状、歯学部生をその入り口となる歯科医師国家試験に合格させることに大きなハードルがあります。歯科医師国家試験の近年の傾向を見ると、基礎知識を単独で問う問題以上に、病態生理の理解を問う問題が重視されています。そこで、私たちは以下の3方針を掲げ、教育を行っています。

臨床学(内科・歯科麻酔等)への架け橋

全身疾患(内科)や全身管理(歯科麻酔)を学ぶ際、その根底にあるのは正常な生体機能=生理学です。例えば、心疾患や糖尿病の病態、麻酔薬による呼吸・循環の変化を理解するには、生理学の知識が不可欠です。私たちは「臨床で役立つ生理学」を意識し、科目の垣根を越えた統合的な理解を促します。

「なぜ?」を解き明かす力を育成

国家試験の膨大な範囲を丸暗記するのは不可能です。私たちは「なぜこの現象が起こるのか?」というメカニズムを重視し、論理的な繋がりを一度理解してしまえば、知識は忘れにくくなり、初見の応用問題にも対応できる思考力が身につきます。この点を重視した教育を考えています。

科学的根拠(エビデンス)に基づいた臨床推論

客観的なデータやバイタルサインから、患者さんの状態を正確に読み解く力を養います。これは試験合格のためだけでなく、卒業後に一人の歯科医師として現場に立った際、患者さんの命を守るための絶対的な武器となります。

3.教授:黒瀬 雅之の教育活動と実績

歯学部のカリキュラムでは、毎年同じ時期に同じ内容の講義が割り当てられます 。前年と同じスライドを使い、同じ説明を繰り返す「慣れ」に陥りやすい環境と言えますが、私は「同じ授業は絶対にしない」ことを自らに課しています。

自己省察と改善講義が終わるたびに「今日の学生の反応はどうだったか」「どの説明で手が止まったか」を振り返ります。前年の資料をベースにするのではなく、最新の国家試験の傾向、そして何より「目の前の学生の理解度」に合わせて、プレゼンテーション資料を一から作り直す覚悟で臨んでいます。
学生の態度と声が最大のヒント私の研究室には、学年を問わず多くの学生が雑談や相談に訪れます。その際、「あの説明、実は分かりにくかった?」と積極的に問いかけ、学生の生のフィードバックを収集しています。学生からの指摘を「独りよがりな教育」への警告と真摯に捉え、即座に次の講義資料に反映させています。
「居眠り」は教員への無言のメッセージ各授業における学生の態度は、私にとって最も残酷で、かつ最も信頼できる鏡です。スマホを触る学生、居眠りをする学生など様々ですが、私自身が「上手く話せている、惹きつけられている」時は、そうした学生の数が激減することを体感的に理解しています。学生は、教員の授業レベルから「聞くべき授業か否か」を瞬時に取捨選択しています。学生の態度の変化を、自分の授業を客観的に評価する厳格な指標とし、一分一秒でも多くの学生が前を向く講義を追求し続けています。

教育への情熱と絶え間ない改善は、学生たちによるシビアな評価において、明確な結果として現れています。

学生による信頼の証岩手医科大学歯学部において、学生による「授業に対する総合評価」の結果、2023年度・2024年度の2年連続で「Best Teacher(総合2位)」として表彰されました。
生理学を「得意科目」に変える工夫1年生・2年生を対象とした基礎講義において、難解で抽象的になりがちな生体現象を独自の図解や動画を用いて「視覚化」し、暗記に頼らずともロジックで解ける機会を学生に提供しています。「先生の講義で勉強が楽しくなった」という学生からの声が、私の教育における最大の原動力です。

自身の教育技法のブラッシュアップは常に行っております。

日本生理学会による公認生理学教育の質の向上を目指し、学会が認定する「認定生理学エデュケーター」の資格を保持しています。
最新教育技法の導入日本生理学会教員委員会が主催するモデル講義やワークショップには足を運び、全国の優れた教育者の技法をどん欲に吸収しています。常に教え方の最先端を学び、本学の学生に最良の学びを提供することを約束します。

4.こだわりの講義ノート:自ら描き、理解を定着させる「思考の設計図」

生理学の深い理解には、教員の言葉を聞くだけでなく、自らの手を使って情報を整理し、思考を形にするプロセスが不可欠です。当分野では、よくあるスライドを分割配布する形式ではなく、学生が主体的に講義に参加し、自ら完成させる「独自の講義ノート」を採用しています。

単なる「穴埋め」を超えた、アクティブ・ラーニングの形

多くの講義資料は文字の穴埋めに終始しがちですが、当分野で配布している講義ノートは「自分の手で図を描く」ことを重視しています。

構造の視覚化膜電位の変化様式や、神経細胞でのインパルスの伝導プロセスなど、抽象的な概念をあえて未完成の図として提示し、講義の中で学生自身に書き込ませ、完成させます。
思考の余白講義中に気付いたことや、自分なりのロジックを書き込める十分な余白を設けています。これにより、ノートは単なる記録ではなく、学生一人ひとりの思考の設計図へと進化します。

徹底した視覚素材へのこだわり

生理学において、不正確で不明瞭な図説は学生の混乱を招く原因になります。私は、学生がストレスなく直感的に理解できるよう、視覚素材に一切の妥協を排しています。

著作権の遵守と高品質素材の確保ネット上の画像を安易に流用せず、PIXTAやDreamstime等のフォトストックサイトから正式にライセンスを購入した高品質な素材を使用しています。教育の質を高めるための投資は惜しみません。
Adobe Illustrator / Animate CCによる独自制作既存の素材では表現しきれない精緻な生体メカニズムは、IllustratorやAnimate CC、PowerPointを駆使して自ら一から作図・アニメーション化を行っています。

後で読み返せる資産としての資料作り

このノートは、試験直前の暗記のためだけのものではありません。臨床実習や国家試験、そして歯科医師になった後でも読み返せる「一生モノの参考書」になるよう、情報の密度とレイアウトを徹底的に調整しています。

「一生モノ」の証嬉しいことに、国家試験の本番当日にこのノートを会場まで持参してくれたり、卒後も大切に保管して活用してくれたりしている卒業生もいるようです。その事実は、このノートが学生にとって単なる教材を超えた「信頼の拠点」になっている証であり、私の大きな喜びです。
論理的なストーリー構成項目ごとに「なぜそうなるのか」という論理的な繋がりを重視し、後から読み返した際にも当時の思考が鮮明に蘇る構成を追求しています。

公開サンプル:講義ノート(神経細胞)

※実際の講義で使用している資料の一部です。